財務諸表監査における二重責任の原則について、簡単に解説したいと思います。
二重責任の原則とは、財務諸表を作成する責任は経営者(企業)にあり、公認会計士は経営者が作成した財務諸表を監査する責任があるという原則で、財務諸表監査の根幹をなします。
二重責任の原則が採用されている理由は、仮に公認会計士が財務諸表を作成してしまうと、自己で作成した財務諸表を監査することになり、財務諸表の信頼性が担保されなくなってしまうためです。
二重責任の原則から、上場会社等、監査を受けることを義務付けられている企業は、自ら財務諸表を作成しなければなりません。近年、会計基準が複雑化しており、監査に耐えうる財務諸表を作成するには、高度な専門知識が必要になります。日商簿記検定1級程度の知識に加え、自ら会計基準や関連法規を調べる能力が必要となります。情報収集や内部統制の構築のために全社的な協力も必要となります。
会計基準の適用においては、解釈により複数の会計処理が考えられる場合があり、公認会計士が企業に対して会計処理に関する指導をすることもあり、二重責任の原則の線引きは曖昧な部分があります。ただ、一義的には、企業が自ら会計処理を決定していくこととなります。
近年、監査法人が監査を引き受けない監査難民が増えていることが問題になっています。監査法人が監査を引き受けない理由として、企業が自ら財務諸表を作成する能力が乏しく、二重責任の原則の遵守が困難であることが挙げられると思います。特に、新規の株式公開を目指す企業では、専門知識を有した経理担当者を確保できていないことが多いと思われます。
経営者が二重責任の原則や会計を理解しておらず、必要な人材を確保する予算を割いていないこともあると思います。
監査難民問題の解決には、公認会計士の数を増やすだけでは足りず、企業側の改善も必要であり、日本の会計リテラシーを引き上げる必要があります。日商簿記検定3級程度の知識は義務教育で教えるべきです。