会計事件史⑤(大王製紙事件)

はじめに

2011年9月に発覚した大王製紙貸付金事件について解説したいと思います。

事件の概要

大王製紙の取締役会長が、同社の子会社から約100億円もの金銭の借入れを受け、私的に流用していました。同会長は大王製紙の創業者一族の一因でした。

当該貸付けに際し、取締役会決議等の必要な手続きがなされていませんでした。

同会長は特別背任罪で有罪判決を受ける結果となりました。

上場企業において、100億円もの大金を私的に流用することが見逃されていた事実が衝撃的であり、世間の大きな注目を集めた事件となりました。

問題となった会計処理

貸付金100億円は私的に流用されており、全額の弁済は困難な状況でした。そのため、貸付金について貸倒引当金を設定する必要がありましたが、引当不足となっていました。

また、役員に有利な取引を行うことで、会社に不利益が生じるおそれがあります。このような取引を牽制するために役員と会社との間の取引は、一定の要件を満たす場合に計算書類や有価証券報告書で開示する必要があります。しかし、当該開示が不十分でした。

事件の影響

監査法人トーマツが大王製紙の会計監査人でした。同監査法人に金融庁の調査が入りました。同社が設置した調査委員会報告書では、会計監査人は当該貸付金の存在を認識していたにも関わらず、社外監査役等への報告がなされていなかった等の指摘がなされていました。

同じ時期に、オリンパス事件であずさ監査法人と新日本監査法人にも金融庁の調査が入っており、大手監査法人3社に行政処分が下るのではないかと世間の関心を集めました。

ただ、トーマツには行政処分が下されることはありませんでした。事件発覚後、当該貸付金とは関係ない会計処理も多数訂正がなされました。改めて監査を厳格にやり直したのが評価されたのかもしれません。

おわりに

トーマツに対し処分がなされなかったのは少し甘いと感じました。