はじめに
弁護士と簿記会計との関係について記事にします。一般的な弁護士業務の中で、簿記会計の知識が特に必要になりそうな分野を解説したいと思います。
倒産法分野
破産申立てや破産管財人業務を行う際には、債権債務や処分可能資産、現金預金の使途等の情報を正確に把握する必要があります。まともな個人事業主や法人であれば帳簿をつけており、帳簿を見れば、これらの情報を把握することができます。
代表的な例ですと、得意先元帳や仕入先元帳により債権債務関係を把握することができます。また、現金預金の総勘定元帳により、現金預金の使途を把握することができます。
次に、固定資産台帳により、処分可能資産を把握することができます。減価償却の意義を正確に理解していれば、倒産時において固定資産の帳簿価額にあまり意味がないことも理解できます(参考:簿記の基礎④(減価償却から取得原価主義を理解する))。
簿外資産負債も存在するため、帳簿により全ての情報が把握できるわけではありませんが、大方の情報は網羅しています。逆に帳簿に記載されている情報を見落とした場合には問題になると思います。
労働法分野
労使交渉や整理解雇を扱う際には、雇用主の正確な財務情報を把握する必要があります。財務情報を正確に把握するためには、簿記会計の知識が不可欠になります。
例えば、新型コロナウィルス感染拡大の状況で利益が減っていても、余剰資金が多くあるのであれば、早急に人員を減らす必要はありません。このような情報を把握するには、損益計算書や貸借対照表の理解が必要になります。
おわりに
上記で述べた以外にも、経営者と会話するときですとか、経済犯罪を扱うときですとか、税理士や公認会計士に業務を依頼するときですとか、新聞を読むときですとか、様々な場面で簿記会計の知識は役に立つと思います。
旧司法試験では会計学が選択科目であったこともあるようです。また、簿記会計学をカリキュラムに設けている法科大学院も存在します。
このように、簿記会計の知識は弁護士業務を行う上で必須に近いと思いますので、日商簿記検定3級程度の知識は最低限、身に付けておくことをおすすめします。