会計事件史①(りそな銀行公的資金注入事件)

はじめに

私が会計の勉強を始めてから、世間的に大きなニュースになった会計に関連する事件を記事にしていきたいと思います。問題となった会計処理についても簡単に解説していきます。

まず初めに、りそな銀行への公的資金注入事件について解説します。この事件は2003年に発生した事件で、当時の私は日商簿記検定2級か3級の勉強をしていたと記憶しています。

事件の概要

りそな銀行の自己資本比率が低下し、基準値を下回ったため、りそな銀行へ約2兆円の公的資金が注入されるという事件でした。

自己資本比率は貸借対照表における総資本に占める自己資本の割合で、財政状態の健全性を示す指標です。利益が減少すると、自己資本を構成する利益剰余金が減少し、自己資本比率は低下します。銀行の倒産が社会に与える影響は甚大です。そのため、銀行は財務的に健全な経営が求められ、自己資本比率を一定程度の水準に保つことが要求されています。

りそな銀行の自己資本比率を低下させた大きな要因として、繰延税金資産の計上が認められなかったことが挙げられます。

繰延税金資産とは

まず、以前の記事にも記載したとおり、会計と税務では一部ズレが生じます。一般的に、会計上の費用は税務上、遅れて損金になる傾向にあります。その結果、費用は発生しているのに、税金減額の効果は後になって生じることとなります。ただ、費用の発生と税金の減額効果は同じ期に反映すべきです。そこで、将来の税金の減額見込み分を繰延税金資産として計上します。(会計と税務のズレは他にも様々な要因で発生します。将来の税金が逆に増える見込みであれば繰延税金負債を計上します。)

このような会計処理を税効果会計といい、現在は日商簿記検定2級の範囲となっています。繰延税金資産や税効果会計という単語はニュース等でもよく登場するので、簡単に理解しておいて損はないと思います。

繰延税金資産の計上が認められなかった理由

税金の減額効果が生じるには、課税所得が生じることが前提となります。課税所得がゼロの会社において損金の額が増えたとしても、税金の金額はゼロのままに代わりはなく、税金の減額効果は生じません。そのため、損金が生じる将来の時点において、課税所得が生じる見込みがなければ、繰延税金資産の計上は認められません。

りそな銀行は当時、経営状況が良くなく、将来の課税所得の発生の見込みは低いと監査を担当する監査法人が判断したようです。

おわりに

繰延税金資産を計上するか否かの判断においては、会社の将来の業績を予測する必要があります。当該予測は容易ではなく、経理担当者や監査担当者はかなり頭を悩ませる項目です。

公的資金が注入されると、従業員の給料減額やリストラがなされるなど、影響は大きいです。当時の関係者には相当のプレッシャーが掛かっていたと思います。現に、りそな銀行の監査を担当していた公認会計士に不幸が起きました。

会計の難しさと重要さを実感した事件でした。